【2】

　一方、調理場では商品の準備のため、アイドルたちがフル回転で動き回っていた。
　熱い湯気が漂う中、小石川　涼矢は大きな鉄板の上に豚バラ肉と山盛りのキャベツ、そしてもやしを投入した。
　ジューッという音と共に、香ばしい匂いが立ちこめてくる。

「どんな時でも、パフォーマーとして最善を尽くすぜ……！」

　鈴木　太郎はコテをクルクル回転させたかと思うと、突然【ファイアボール】を取り出しジャグリングを始める。
　ここは、広いステージの上でなくただの狭い調理場だ。
　少しでも位置がずれれば、大火傷を負ってしまいかねない。
　そんなギリギリのところで見せる極限のパフォーマンスだからこそ、より一層、見栄えもするというものだ。
　涼矢はその隙に麺をよく焼き付けてパリパリにし、ウスターソースをベースにした中濃ソースを入れた。

「仕上げはオイスターソースと、隠し味に出汁醤油を加えた秘伝のソースだ……」

　湯上谷　潮音は出来上がったやきそばにキムチや豚そぼろのトッピングでアクセントをつける。
　奥からパラソルを抱えて出て来た無響　アデルも、茹で卵を手早く輪切りにして手伝ってくれた。
　神秘的な白い長髪と白い狐耳、長く太い狐尾に客たちはうっとりと見とれている。

「お待たせしました、やきそばです！　アツアツのうちにどうぞー」

　涼矢の掛け声と同じタイミングで太郎のジャグリングがフィニッシュを迎え、客たちから温かい拍手が送られた。

「君が火傷しないか、ヒヤヒヤしたよ……」

　涼矢がやきそばを詰めた容器に輪ゴムをかけ、手早く並べていく。

「ある大道芸人から聞いた……自分に向いていないことを無理矢理頑張るよりも、自分に向いたこと、他の人より得意なことをやるべきだと。パフォーマーは、僕の天職だ」

　どこまでが正確な知識かは不明だが、それだけ太郎には達成感が得られたということだろう。

「すごく深いですね……。あ、ラーメン入ります～！」

　涼矢がやきそばを売りさばいてくれる間、潮音は注文が入ったラーメンの準備にとりかかった。

　最後までこだわり抜いたとんこつスープは魚介系と鶏がら系、2種類を用意している。

「潮音の姐御、ラーメンはもう出せそうか？　とんこつ3人前頼む」

　人数分の器を準備してくれた太郎が声をかける。

「ええと、スープができるまで……あとすーぷんかかりそうです！　なんちゃって」

　軽いダジャレを飛ばした潮音のペースに、思わず癒される太郎と涼矢。

「いつか弟と妹にも……今のダジャレ、教えてあげることにしますね」

　アデルの反応も悪くなさそうだ。
　潮音は安心するかのように、自分でも「ふふっ」と笑った。
　とんこつラーメンはコシのある麺にコクのあるスープ、たっぷりのネギと半熟煮卵、海苔、彩りに紅生姜とゴマを乗せれば完璧だ。
「僕、外にパラソルを置いて、そこでもやきそばを売って来ますね」

　太郎が大量のやきそば入り容器を持ってくれ、アデルは早速販売を開始する。

「卵たっぷり、タンパク質が豊富でエネルギーになりますよ～」

　近づいて来た客を【奔放な風】で涼ませてあげながら、自分もその風で涼んで笑顔になるアデル。
　やきそばは飛ぶように売れ、後ほど全ての売上を海の家に寄付したのだった。