■エピローグ■

『スカイタワーが造られた当時は……。
世の中がこんな風になるとは思ってもみませんでした』

スカイタワーの建築デザインを担当した吉村重信が
イベントを終えたアイドルたちや観客をステージ上から見回しながら言った。

『ちょうど10年ぐらい前からでしょうか。
テクノロジーの革新とは違う形で、僕たちの見える景色が違ってきた。
正直に言ってしまえば、僕なんかは、ほら、その時にもうオジサンだったから、
アイドルというものにそう興味もなかった。

でも、現在に至るまでに、おそらく歴史上、例を見ない盛り上がりかたをしてきた。
僕はスカイタワーと一緒にその変化を見ていく中で、
今ではすっかりアイドルにワクワクするようになったんです。

これはきっと、何か凄いことだぞ、と。
いやまさに今回の25時間ライブもね、すごかったですね。
アイドルもお客さんも、楽しそうだったけど、きっと大変だったんじゃないかな。
こうして最後までやった、観たってのはすごいことだ、本当に。

……タワーをデザインする時に一番苦労したことは
この狭い敷地に600ｍを超えるものを建てるための形は、ということだった。
狭いところに高いものをつくるというのは、これが中々難しいんで。

チームの皆とああでもないこうでもないと
ずっと討議を繰り返して繰り返して本当に苦しかったんですが……
今では、それが一番楽しかったことになっています。

ですから、そのー、皆さんも今回の25時間ライブ、苦労もあったかもしれませんが
その分も、楽しい想い出となってくれたら良いなと、思います。

いやー……うん、皆さん、今回のイベントを盛り上げてくれて
ありがとうございました。楽しかったです。本当にいいイベントだった。

これからもスカイタワーをよろしくお願いします！』

拍手の中、吉村がステージを去っていく。
集まった大勢の観客の拍手は吉村にだけではなく、
25時間を演り抜いたアイドルたちにも惜しみなく送られていたのだった。

■□■

「以上で今回の強化イベントを終了とする」

聖歌庁の白陽秋太郎が
バーチャル空間から戻って来たアイドルたちを前に言った。

「今回の成績優秀者は
聖歌庁のデータベースに登録させてもらった。
有事の際は頼りにさせてもらうことになるだろう。
もちろん、今回のイベントで計れるものは限られている。
他の者も合わせ、今後にも期待している」

秋太郎はそこまで言ってから
少し間を挟み、冷たい口調で更に続けた。

「今回のデータを元に聖歌庁は
新たな強化用システムを準備予定だ。

……既に次の大規模異世界化が予見されている。
それが前回と同じような形で起こるか、違う様相を見せるかは分からんが
この強化イベントでの経験を活かし、君たちがより多くの人を救うことを願う」

それから、秋太郎はフェスタのアイドルたちの方を見やった。

「今回、セブンスフォール、華乱葦原ともに
最も点数が高かった学校はフェスタだった。
その成績を称え、ささやかながら褒美を送ることになった。
内容については既に学校へ通達してある。

我々は君たちの実力を少々甘く見ていたようだな。
次は上のランクのステージへ招待しよう」

■□■

フェスタ、校長室。

「ふむふむ……ええ……なるほど……」

フェスタの校長、木馬太郎は、とある電話を受けていました。

「ふふ、それでは、よろしくお願いします」

カチャリと古めかしい黒電話を切った校長は
校長室の窓から、学校へ帰ってくる生徒たちを見下ろしました。

「皆さん、25時間ライブに強化イベントに、よく頑張りましたね。
そろそろちょっとしたご褒美があっても良いと思っていたところです。
ふふ……今年の夏は楽しい夏になりそうですよ」

校長は楽しそうに、そう呟いたのだった。